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金価格を押し上げる米政策の不透明感
2025/3/21
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA)
株価との連動性が強まっていた金価格だが、ここにきてその関係性に変化が生じている。米トランプ政権による強硬な関税政策をはじめ、バイデン政権期に実行された大規模財政出動によるインフレ、それに伴う米国の高金利政策が複合的に作用し、景気の先行き不透明感が一段と強まっている。この影響で株価は調整局面入りしたものの、金はその動きとは逆に、リスク・プレミアムを積み上げる形で上昇基調を維持している。
金価格を動かす主要因は大きく6つ。1.実質金利(特に10年物の実質金利)動向、2.ドル指数の推移、3.米国の信用リスクや基軸通貨リスクへの回避行動、4.企業信用リスクの回避、5.戦争などの地政学的リスクの回避、そして6つ目がこれらを踏まえた投機的な需給だ。
2019年以降の金価格の推移を見ると、まずコロナショック時には危機時のキャッシュ化に伴う売り圧力から一時的に下落。その後、米国を中心とした主要国が景気対策として大規模な財政出動と金融緩和を行い、インフレ期待とともに実質金利が大きく低下、これが金価格の急上昇を招いた。2021年後半からは米国の金融正常化観測を背景に実質金利が反転上昇、金価格は下落基調となった。この間は上記の1.の実質金利要因の影響が大きいと考えられる。そして注目すべきはこの間、「世界経済の不安定性指数」が低下している点。つまり、価格に対して実質金利の説明力が高い可能性が考えられる。
(出所:CME、Bloomberg、MRA)
しかし2022年2月、ロシアによるウクライナ侵攻を受け、地政学的リスクが高まり、リスク・プレミアムが上昇(要因5.)。その後、米国の制裁措置によるドル決済の制限が、ロシアや新興国の脱ドル志向を強め中央銀行の金準備積増しという形で顕在化、金需要を押し上げた(要因3.)。さらにガザ紛争の勃発、宇露戦争の継続を受けて各国中央銀行による金準備積増しは継続、金価格は水準を切り上げる動きとなった。
2022年以降は特にファンド勢のオルタナティブ投資先として金の比率が引き上げられる動きが加速したと考えられる。各ファンドとも金の投資比率は明らかにしていないが、個人も含めて金への注目度が増したことも価格を押し上げた。この結果、リスク選好の指標である株価の上昇と金価格の同時上昇が確認された点も注目に値する。この期間における世界の経済政策不安定指数は低下傾向にあり、経済が安定し、株高+金需要増に拍車が掛かるという、従来の常識では想定しにくい環境が形成された。
直近では、トランプ政権が進める強硬な外交・通商政策に対し、各国の政治・経済的な対立構造が一層強まったことで株価は調整したが、金はリスク・プレミアムの上昇を受けて上値を追い、ついに3,000ドルを上回った。この動きは、関税摩擦や地政学的リスクの高まりが米国とその他の国の対立を強めており、どの国がトランプ政権の政策の悪影響を受けるかよくわからない状態になっているため消去法的に金が「安全資産」として物色されている構図といえる。実際に、トランプ政権の外交不支持率と金のリスク・プレミアムには一定の相関が見られる。
(出所:CME、Real Clear Politics、MRA)
今後は、トランプ政権の交渉によって地政学的リスクや貿易摩擦が緩和される、あるいは景気不透明感が後退するまでは、このリスク・プレミアムが維持・上昇し、金価格も高値圏を維持する可能性が高い。ただし、こうしたリスクが解消されれば、リスク・プレミアムが剥落する形で金価格は水準を切り下げ、再び株価との連動性が高まる局面も想定される。現在の市場予想をもとにすると、2025年末時点のS&P500は予想中央値が6,500ポイントであるため直近数年の金価格との回帰分析の結果を基にすると、金価格の予想中央値は2,909ドルとなる。S&P500は最も低い予想が4,350ポイント、最も高い予想が7,100ポイントであるため、金価格は1,953ドル~3,175ドル程度が取り得るレンジだが、4,350ポイントはかなり深刻なショックが顕在化した場合の予想であるため、現時点ではアップサイドの予想に近い数字になるのではないだろうか。

株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)
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