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住宅価格にもトランプ関税の影響?
2025/3/7
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA)
2025年1月20日に米大統領に就任して以降、トランプ大統領は「アメリカ・ファースト」の旗印の下、ウクライナ・ロシアの停戦や、関税の引き上げを軸に貿易条件の改善を図るなど精力的に公約を遂行している。しかし、あらゆるところで指摘されているように、今回の米政府の政策が米国にとってプラスに作用するとは考え難い。関税に関して言えば、「税」であり、そしてその税金はそのモノを消費する米国人が負担することになる。簡単に言えば増税と同義だ。
このとき、仮に関税が引き上げられた場合、輸出側は輸入側の値下げ要請に従って値段を抑える可能性はあるが、今回カナダやメキシコをはじめとする国に課される関税は25%と税率が高く、基本的に交渉事でどうにかなる水準ではない。輸入してその商品を販売する、あるいは加工して製品にして販売する輸入者側(輸入企業・製造業)も、最終消費者がその価格上昇を受け入れれば問題が無いが、税率の高さを考えると100%の転嫁は難しく、輸入者側もある程度、コスト上昇分を負担せざるを得なくなってくる。このとき、輸入者側に代替先からの調達の選択肢があるならば問題が無いが、今回はほとんどの国や地域に対して関税を課す方針であるため、やはり米国消費者の負担は小さくないと予想される。仮にこれを米国が回避しようとした場合、原料に関しては関税を掛けないといった選択的な関税引き下げを行う必要が出てくる。LNGや原油などでは10%の関税となるようだが、それでも関税は課す見通しであり、ゼロ、ということは今のところなさそうだ。
では企業がカナダやメキシコ(特にメキシコ)から米国に工場を移す、ということがあるかどうかもなんとも言えない。移転ではなく、新規に工場を作るならば余り問題はない。しかし既存の工場を米国に移管しようとした場合、業種にもよるが共和党政権が民主党政権になって政策が反転した場合、米国の諸コストの高さを考えると米国で生産を続けることが割高になる可能性があるためだ。現在、企業はその影響を注視している状況。
これらの国にとどまらず、影響が拡大するとみられる関税の引き上げは幅広い商品の価格や取引フローに影響を及ぼす。コロナショック時に話題になった材木も影響は不可避と見ている。原稿執筆時点で、米ラトニック商務長官が両国への関税縮小を検討と報じられているが詳細は不明であり、関税を撤廃するとはされていない。仮にカナダ・メキシコに対して25%の関税が適用された場合、これらの国から輸入している木材価格を押し上げて、住宅価格の上昇に繋がる可能性がある。2024年の実績では米国は金額ベースで230億ドルの木材・木製品(Forest Product)を輸入しており、そのうちの48.2%に当たる木材がカナダから、3.1%がメキシコから輸入されている。これをその他の地域に振り替えたり、米国内で消費される木材の20%~30%程度が海外産であるため、これを全て国内産に置き換えることも容易ではない。欧州からも輸入しているが、EUに対しても関税が引き上げられる見通しであるため、やはり木材の輸入価格は上昇するとみておくべきだろう。
(出所:USDA)
問題はこの木材の価格上昇が、米住宅価格の上昇に繋がる可能性がある点だ。全米住宅建設業者協会(NAHB)の2024年の建設コスト調査では、住宅価格の64.4%である42万8,215ドルが建設コストとされる。詳細な分析の説明は割愛するが、このうち骨組みや内装に木材が用いられており概ね建設コストの10~15%程度とされている。結果、住宅1軒あたりの木材のコストは販売価格の6.4%~9.7%程度、平均8%程度となる。もちろん、最終製品である内装に用いる木材などの価格に原材料の木材価格が100%転嫁されている訳ではないが、仮に木材の価格上昇がそのまま最終価格に転嫁されるとした場合、2%程度、住宅価格が上昇することになる。実際、米新築住宅価格とシカゴ材木価格先物(先物はLumber Futureであるため、材木と訳している)の間には相関性があり材木価格の上昇が住宅価格の押し上げに寄与していることを示唆している。今回の価格上昇は年明けから始まっているため、米関税引き上げを意識したものと考えられる。ただし、コロナショックの影響でカナダの製材所が閉鎖したり、コロナによる住宅事情の変化(より大きな郊外の家で、リモートワークなど)で材木価格が急騰した2020年頃ほどの上昇にはなっていない。
現在、カナダ産の木材に対する米国の輸入関税は14.54%だったが、3月4日からこれに25%が付加され関税は39.54%となっている。これを受けて木材・木製品価格が上昇したり、場合によって米国ヘの木材供給が減少した場合、住宅価格の上昇が家賃上昇などを通じた物価指数の上昇に繋がり、FRBが期待通り利下げができなくなる可能性も出てくる。このとき、住宅セクターの減速で米景気が急減速するリスクがないわけではない。
以上を考えればトランプ関税はいずれは緩和される、というのがメインシナリオになるのだが、第一次トランプ政権の時も一度決めた政策はしばらく継続することが多かったことから、しばらくはこの関税リスクが住宅価格にも影響を及ぼすリスクは意識せざるを得ないのではないだろうか。そして今回の材木価格の上昇がコロナショック時に多くの商品の供給に影響が及び、生産停止や価格急騰となったことと同様、住宅価格を通じて金融政策にも影響を与える可能性が否定できないことは、無視できないリスクと言える。それほどに、今回の関税引き上げは広範囲に影響が及ぶことが懸念される。
(出所:CME、米国国勢調査局)

株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)
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