2025-07-12 23:05:09

金リスク・プレミアムが内包するリスク

2024/12/19
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA)

◆2024年は樹木系商品価格が上昇
2024年の漢字は「金」だった。パリ・オリンピックでの金メダルラッシュなどもあったと思うが、金価格が急騰したことも金が選ばれた理由の1つだろう。原稿執筆時点での金価格の年初来上昇率は、+28.6%であり、弊社が重要と考えて日々ウォッチしている商品の中では上昇率は11位だった。ちなみに上位は1位がICEカカオ豆(年初来上昇率+181.7%)、2位がLIFFEカカオ豆(+166.8%)、次いでビットコイン(+149.5%)、ICEアラビカ豆(+74.6%)、LIFFEロブスタ豆(+71.7%)、CBOTオレンジジュース(+66.4%)、SGX天然ゴム(+30.9%)と農産品が多数を占めた。これはエルニーニョ現象の影響などもあっただろう。ただ、ビットコインを除けばこれらに共通するのは「樹木」である点。

天候不順で木が一度弱ってしまうと、生産力の回復に時間がかかるため、今後もこれらの商品の供給不安と価格上昇は続く可能性がある。

◆金リスク・プレミアムは高止まり
話を金に戻すと、金価格は米大統領選挙前に大幅に上昇した。これはトランプ候補の優勢が伝わる中で「財政拡張とそれに伴う債務上限問題(デフォルトリスク)」が意識されたためと考えられる。しかし、トランプ候補が勝利し、さらに上下院とも共和党支配が確定したことでこのリスクが後退して水準を切下げた。

金価格は「実質金利で説明可能な部分」と「リスク・プレミアム」に分けられるが、この上昇は明らかにリスク・プレミアムの上昇によるものだった。しかし、2024年の金相場を振り返ると大統領選挙時に限らず、このリスク・プレミアム動向が価格を左右してきたといえる。この数年のリスク・プレミアムの変動要因は、

1.世界的な金融大規模緩和による自国通貨の価値目減り回避
2.(1.の後の)米金融引締めによる米国債の価値目減り回避
3.決済通貨としてのドル回避(2022年ウクライナ危機後のドル決済禁止を契機とする、BRICS諸国の金準備積み増し)
4.地政学的リスク(宇露戦争・中東情勢不安)
5.信用リスク(ソブリン・民間)

が主な所。

弊社は米金融引き締め加速によって5.の信用リスクを材料とするリスク・プレミアムの上昇が起きたと考えていたが、実際は上記の1~4の影響が大きかった。そのため、金融緩和局面で信用リスクが低下したものの(クレジット・デフォルト・スワップなどはスプレッドが縮小)、弊社の見通しとは異なり、むしろリスク・プレミアムは上昇した。言葉を換えると、金融緩和だけでリスク・プレミアムは低下しなかったということであり、更に別の言葉を使えば「まだ顕在化しない大きなリスクを金リスク・プレミアムが内包している」可能性を示唆している。

出所:CME、マーケット・リスク・アドバイザリー

ここに含まれるのは、地政学的リスクはもちろんなのだが、地政学的リスク以上に2025年以降、最大のリスクになり得るのが「中国の構造的な景気減速」と「欧州経済の悪化」が、シンクロしながら同時進行するリスクだ。米国第一主義を標榜するトランプ次期政権が他国への圧力を強める中、構造的な成長鈍化局面入りしている中国の成長がさらに下振れするリスクは無視できない。また、欧州も脱炭素の方針の下、ロシア依存が結果的に高まってエネルギーコストが上昇、EVなどの分野で中国との連携を深めた結果、安価な中国製品の流入で自国経済が強い下振れ圧力に晒されている。特にドイツは(現時点においては)これらの政策が裏目にでたと言え、小さくないリスクになっている。また、トランプ政権下において仮想通貨ビジネスが加速するとの期待から物色されているビットコインも、他のリスク資産との相関が低いが故に何らかのリスクを織り込んで物色されている可能性も否定できない。

出所:CME、マーケット・リスク・アドバイザリー

過去、何らかのショックが発生するのは金融引締めを行っている時ではなく、景気の減速を意識して政策金利を断続的に引き下げている時の方が多い。今のところ米国でそれが起きる可能性よりも、いろいろな対応が後手に回りやすい仕組みの欧州のリスク顕在化の可能性の方が高い。無論、各国政府・中央銀行ともこのリスクを回避するべく最善を尽くすとみられるためリスクシナリオの位置づけではある。

しかし、トランプ政権誕生や欧州でも独仏で政権交代が起きる可能性があることを考えると、政策の不連続性がリスクを顕在化させる恐れがあるため、十分意識するべきだ。そのリスクが仮に顕在化した場合、金価格は上昇したのち、キャッシュ化の動きで下落すると予想される。その意味で金のリスク・プレミアム動向は2025年も注視していく必要があると見ている。

新村 直弘

株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)

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登録番号 関東財務局長(金商)第44号
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