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金価格の上昇は続くのか
2024/11/1
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA)
金価格の上昇が続いている。マーケット・リスク・アドバイザリー(以下、当社)は米国が利下げに動く中ではむしろ安全資産需要が減少するため、リスク・プレミアムが低下する形でむしろ金価格が下落するとみていたがそれとは裏腹の動きとなっている。金価格は実質金利で説明可能な部分とそれ以外の部分に分けて考える必要があるが、この数年、明確にリスク・プレミアムが上昇する形で金価格が上昇しており、インフレ部分が説明可能なポーションは低下している。米利上げによる価値目減りを回避するための金需要は一巡していること、これまで価格上昇の説明に用いられてきた主要国のマネタリーベースも減少傾向にあることを考えると何かしらの要因がリスク・プレミアムを押し上げていると考えられる。
そしてリスク・プレミアムへの影響が大きいのは恐らく、地政学的リスクだろう。いつの地政学的リスクイベントがどれだけ金価格を押し上げたかを明確に切り出すことは困難だが、直近3年程度の地政学的イベントのタイミングと、その後のリスク・プレミアムの上昇を考えると、各々の地政学的イベントの金価格へのインパクトを概算できるはずだ。恐らく鍵になるイベントは、1.宇露戦争(2022年2月24日)、2.ガザ紛争(2023年10月7日)、3.北朝鮮ウクライナに出兵(2024年10月中旬。ゼレンスキー大統領が言及したのが10月17日であるため、10月17日とする)、あたりだろう。
この時の、当社の基準で計算したリスク・プレミアムは、宇露戦争時が219ドル、ガザ紛争勃発時が1,042ドル、北朝鮮出兵時が1,699ドルであり、これらの差を各々のリスク・プレミアムと仮定すれば
宇露戦争 824ドル
ガザ紛争 657ドル
北朝鮮出兵 130ドル
ということになる。宇露戦争と北朝鮮出兵を同じイベントと判断するならば、宇露情勢のみで954ドル、金価格が押し上げられていることになる。そしてこれらの戦闘が終結すればこのプレミアムが剥落する「余地」が出てくるが、こればかりは実際に終わって見ないとなんとも言えないところである。もちろんこの間、脱ドルや、外貨準備が増加した新興国が一定の数量を金にアロケーションしているのも事実であることから、ここまで純粋にリスク・プレミアムが剥落して下落する、と言うわけではない。
足元意識されているのは、更に地政学的リスクが高まるのでは、と懸念されるトランプ候補が有利に選挙戦を進めている点だ。グラフの通り、トランプ候補の支持率と金価格は足元極めて高い相関性を維持している。
トランプ候補が勝利した場合の金価格の上昇要因は、1.財政拡張によるインフレ拡大、2.財政拡張による米国債の格下げリスク、3.米国第一主義とイスラエルを除く他国への無干渉主義が中東での戦局を悪化させ、ロシアの伸張を許して地政学的リスクを高める怖れ、4.中国制裁の過剰な強化による「中国の反発」リスクそれに伴う地政学的リスクの高まり、あたりだろう。
もちろん、ハリス候補が勝利したとしても現状と変わらず、就任直後から地政学的リスクが後退することはないのだが。
出所:Real Clear Politics、CME
以上を考えると、金が下落する材料は少ないが、市場参加者の金価格上昇の楽観(金は下落しない)を織り込んで、ETFや先物を通じて買いポジションが積み上がり、価格が上昇している可能性が高い事を考えると、株価が急落したときなどのキャッシュ化発生など、相応に下落リスクを伴いながらの上昇である点は、忘れてはならない。滅多に売却を行わない公的セクターの買いだけが価格を押し上げてきたわけではないこと、工業向けの需要が顕著に増加したことによる実需主導の上昇ではないためだ。
ただし、50年前も似たような状態(中東危機を受けたインフレ、ドル高進行修正によるドルの価値強制減価による金物色)になって価格の水準訂正が起き、その後リスク・プレミアムの上昇が一服するまで15年程度の時間を要したことを考えると、急落時の下値水準は大きく切り上がった可能性は高い。

株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)
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