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パラジウムも循環物色の可能性
2024/10/23
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA)
貴金属セクターの重要な金属は、金・銀・プラチナ・パラジウムの4種類だが、2024年特に価格が大きく上昇したのが金と銀である。金は需要の約5割が加工需要であり、産業用・歯科向けの他、宝飾品などで構成されるがこの中で最もシェアが大きいのが宝飾品である。残りは地金、コイン・メダル、ETFといった投機需要と公的セクター需要だが、2022年のロシアのウクライナに対する軍事侵攻と、それに対する欧米のドル決済禁止の制裁を受けてドル離れが加速、中国を筆頭に新興諸国の金準備積み増しの動きが強まり、金価格を押し上げた。そして、ほぼそれと同時に始まった米国の急速な利上げとそれに伴う米国債の価値目減りも公的セクターの金買いを促す形となった。またウクライナ・ロシアの戦争以外にも中東でイスラエルと抵抗の枢軸(イスラエル、シリア、ヒズボラ、その他のイスラエルと敵対する武装勢力)の武力衝突が加速する中で、更に金価格は安全資産として、投機の買いを巻き込む形で水準を切り上げた。この中、相対的に割安だった銀も物色され、高値での推移が続いている。
目先、金・銀を積極的に売り込む材料としては、米国が利下げに舵を切る中で米国債の目減りを回避するための金需要が後退する、ファンド筋がポートフォリオに占める金の投資比率を一定にするために株が急落した場合に金を売却する、地政学的リスクの解消による安全資産需要の後退(恐らくこの影響が最も大きいか)、といった事象の発生が必要になると考えられるが、今のところその予兆は見られない。この状況だと同じ貴金属セクターのプラチナやパラジウムが循環的に物色される可能性が出てくる。プラチナに循環的な物色の動きが出て2025年以降に上昇に転じる可能性を2024年9月25日付「プラチナ価格の上昇は2025年以降か」で指摘した。ほぼ同様のロジックでパラジウムにも上昇圧力がかかる可能性がある。
この10年のパラジウムを巡る環境はかなり大きく変化した。欧州の排ガス規制強化や2015年のフォルクスワーゲンの排ガス規制偽装問題を背景に、ディーゼル車からガソリン車ヘのシフトが発生、それに伴いガソリン車の排ガス触媒に用いられるパラジウム需要が増加、価格が高騰した。しかしその後、割安感からパラジウムの代替としてプラチナに触媒を転換する動きが強まり、さらにはガソリン車の最大販売国である中国の電気自動車(EV車)シフトが進んだ結果、パラジウムの自動車触媒向け需要は2019年をピークに減少傾向となっている。パラジウム価格も多少の時間差はあるが概ね需要の減速と共に価格水準を切り下げている。その他の商品でも同じだが、余程極端な供給減少が起きない限り、需要動向が価格を決定しやすい。
出所:ジョンソン・マッセイ、CME
こうなると、パラジウム価格が循環物色の対象となって価格が上昇するには、ガソリン車主体の車大国である米国の景気底入れが必要条件になってくる。現在、米景気の見通しは不透明だが、直近の雇用関連、小売関連統計は想定よりも強いものが増えている。今のところ来年1~3月に景気は底入れして緩やかな回復に、というのがメインシナリオである。しかし、足元の米経済統計の強さを勘案すると、米国の景気後退がなく、そのまま回復する可能性も否定できなくなってきた。その影響もあってか今年の8月頃を底に、投機筋のプラチナショートポジションは減少を開始、パラジウム価格は上昇している。
出所:CME、CFTC
特に価格上昇が明確になったのが、米サプライズ指数(経済統計の市場予想と、実際の統計の乖離を指数化したもの。数字が上昇した場合、実際の統計数値が市場予想よりも良かったことを意味し、低下した場合は実際の数字が市場予想よりも悪いことを意味する)が底入れした8月以降だ。価格上昇は米景気底入れ期待と金が高止まりしていることによるセクター内の循環物色の動きがあったためとみられる。
出所:CME、Bloomberg
また、今後世界の自動車の100% EV車へのシフトがコスト面や安全性の観点から後退し、ハイブリッド車や、プラグインハイブリッド車などが注目され始めている。これらのハイブリッド車の場合、小さくてもエンジンを搭載するため、ガソリン車の場合パラジウムが用いられる可能性は高い。こうしたことが再度意識される中では、同じ貴金属セクターで割安に放置されているパラジウムがプラチナと共に上昇する展開も想定される。

株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)
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