インドの株価、通貨とも他の新興諸国同様に大きく調整しています。しかし、同国の足元の景気動向、中長期の成長ポテンシャルを考えると、いち早く戻す展開が予想されます。この調整局面がインドへの投資のチャンスとなりそうです。
インド経済に注目できるポイントは、中国を中心に多くの新興国経済の減速が懸念される中、これに当てはまらない唯一の主要新興国であること、原油価格下落の恩恵が際立って大きいことです。さらに、インド経済発展の制約になっていたインフラ投資が進展する期待もあるため、海外直接投資を呼び込む流れができれば、過去の中国のような急激な成長を実現する可能性に期待できます。
S&P BSE SENSEX 指数の推移
※データ期間:2014/9/1-2015/9/1
※BloombergのデータをもとにSBI証券作成
インドルピー(対円)の推移
※データ期間:2014/9/1-2015/9/1
※BloombergのデータをもとにSBI証券作成
「新興国経済の減速」に当てはまらない、唯一の主要新興国
中国の景気減速や資源安で新興国経済が変調をきたすなか、インド経済が好調に推移しています。8/31に発表された4-6月期の実質国内総生産(GDP)の成長率は、前年同期比で7.0%と高水準を維持しました。コンセンサス予想によれば、15年4-6月期の7.0%から16年にかけて7%台後半での推移が見込まれています。
対中国向け輸出に頼る度合いが低く、原油等資源の純輸入国であることが、世界の主要国の中では相対的に経済の好調さを保っている背景と考えられます。
インドの対中輸出(香港を含む)は輸出総額の約9%、GDPに占める割合も2%弱で、10%超の国が多い東南アジアに比べ、中国の景気減速が響きにくい構造となっています。
また、インドは資源の純輸入国であることも最近の商品市況の下落がデメリットにならず、逆にメリットになることが有利に働いているようです。
主要新興国の中では唯一、「新興国経済の減速」に当てはまらない国であることに注目できます。
図表1:インドの実質GDP推移
注:予想はブルームバーグ集計のコンセンサスによります。
※当社WEBサイトを通じて、SBI証券が作成
図表2:対中国貿易依存度(対中国輸出額÷GDP)
※世界銀行、IMFのデータをもとにSBI証券が作成
原油価格の下落による恩恵も大きい
原油価格が14年半ばの100ドル台から40ドル台に下落する中、そのメリットが特に大きい経済であることにも注目できます。
図表4は世界のGDPの上位10カ国について、純原油輸入額(「原油輸入額 − 原油輸出額」)のGDPに対する比率を比較したものです。インドは6.8%と主要国の中で際立って高く、インドが受ける原油安の恩恵が大きいことがわかります。
原油安の恩恵は、ガソリン価格の低下を通じて個人消費を刺激する効果が期待され、経済成長の確度を高めるでしょう。同時に、物価上昇率を抑える効果が期待されるため政策金利の低下余地が広がる可能性にも注目できるでしょう。
図表3:原油純輸入額の対GDP比率
※IMF、UNCTADのデータをもとにSBI証券が作成
インフラ投資で海外直接投資を呼び込めれば、第2の中国に
いずれも豊富で安価な労働力が魅力の中国とインドですが、ここ10年でその経済発展には大きな格差が生まれました。インドが中国に大きく出遅れたひとつの要因は、必要なインフラ投資が進まなかったことにあると言われています。
図表4は、両国の海外直接投資の対GDP比率の推移です。06年から08年にかけてインドに対する海外からの投資意欲が高まり、同比率が中国に近い3%台にまで高まったことがありました。しかし、その後は水準を維持することができませんでした。リーマンショックを受けて世界各国が景気てこ入れに向けて財政出動したこの時期、インドでは公共投資にからむ様々な汚職が発覚し、必要なインフラ投資がストップしてしまったのです。
インドとしては、中国に追いつくための重要なチャンスを逃してしまったと言えます。しかし、14年5月に就任したモディ政権の下、同国の経済発展に必要なインフラ投資の進展が期待されています。過去の実績を見ると、海外直接投資が中国並みのGDP比3%台まで上昇する可能性は十分あると言えるでしょう。
海外からの投資を呼び込む流れを作ることができれば、過去中国が経験したような急激な経済成長となる可能性があると考えられます。
足元ではインドの海外直接投資の月次数字にはっきりとした増加傾向は見出せないものの、今後に期待ができるでしょう。1〜7月のインドの粗鋼生産量はインフラ向けの需要堅調を背景に前年同期比4%増となり、同国でインフラ投資が進みつつあることが確認できます。
図表4:インドと中国の海外直接投資のGDP比率
※ブルームバーグのデータをもとにSBI証券が作成
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