「日経平均2万円」を改めて吟味する
日経平均は、23日に19,778円60銭の高値を付け、3月中にも20,000円大台を回復するかのような勢いでしたが、その後は下げる場面がありました。年度替わりの日となる4月1日には、一時19,000円の大台を割り込む場面もありました。その後は、少し値戻しする局面となっていますが、短期間に20,000円大台乗せを実現できるかどうかは、微妙な所です。
そこで、今回の「サキモノのココがポイント!」では、日経平均が高値を付けた23日と何が変わったのか、投資環境を改めてチェックしてみたいと思います。その上で、日経平均の中期的な方向感についても、上昇基調を続けられるのか否かをポイントに検討してみたいと思います。最後に、先物取引の利用により、予想外の環境変化に対しても対処できることを「米雇用統計」を材料にご説明いたします。
<今週のココがPOINT!>
日経平均株価を取り巻く環境〜何が変わったのか?変わらなかったのか? |
冒頭でご説明したように、20,000円の大台回復に向け順調に上昇してきた日経平均ですが、23日に19,778円60銭の高値を付けた後は、下げる場面もありました。この間に、投資環境の何が変わったのでしょうか。考えられるのは次の3点だと思われます。
(1)年金買い、外国人買いが続くとの期待が後退した可能性。
(2)基本的には、米国経済の拡大が続くとの「前提条件」に、疑問を投げかける材料が増加。
(3)日本の企業業績の拡大、景気の回復に対する「自信」が揺らぎつつあること。
(1)については、6週間買い越しを続けてきた海外投資家が、3月第4週に、売り越しへ転じたこと、年金の売買が中心とみられる信託銀行が3月第1週〜第3週に売り越しになったことで、好需給に対する信頼感が後退したことは確かだとみられます。3月末で終わった「2014年度」に日経平均株価が29.5%も上昇したことで、実質的に期替りになった3月27日以降、実現益確保の動きが加わった可能性も大きいとみられます。
(2)については、米国地区連銀の各種景気指数や、住宅関連指標の悪化に加え、ここにきて、企業業績の現状が意外に厳しいことを示す材料も増えてきました。そうした中、これまでは強い数字が続いてきた労働市場についても、3月雇用統計で、雇用者数が予想(24万人増)を大きく下回る結果(12.6万人増)となり、米国経済に対する不透明感を強めています。
(3)円安や原油安の効果が期待されることや、消費増税の影響一巡、法人税減税の効果等、企業業績を上向かせる材料が多いため、その見通しには楽観論が支配的でした。しかし、4月1日に発表された「日銀短観」は、企業が総じて、現状のみならず、先行きに対しても慎重な見方をしていることを示し、市場との温度差があらわになりました。
(1)から(3)にあげたような変化が生じているため、このような現状が長期化すれば、日経平均は下落に転じる可能性が大きくなりますが、その可能性は小さいと考えています。理由は次項で説明したいと思います。
図表1:20,000円目前で「上昇一服」となった日経平均株価(日足)
- ※BloombergデータもとにSBI証券が作成。データは4月6日現在。
「日経平均2万円」を改めて吟味する |
投資環境は確かに変化しましたが、変化したとみられる3点について、過度の懸念は不要であると考えられます。
(1)「年金買い、外国人買いが続くとの期待が後退した可能性」について、どう考えるべきか
これについては、3月期末という一時的な要因も作用したと考えられます。また、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の株式組入れが進捗してきたとの指摘もありますが、3共済や、ゆうちょ銀行、かんぽ生命など、今後株式組入れ比率拡大を見込まれる投資主体は少なくありません。海外投資家についても、ドイツ等主要国の国債利回りの極端な低下で運用難の様相が強まってきた欧州勢等からの買いも期待できそうです。(3)でご説明するように、日本企業の増益基調が確認されれば、コンスタントな外国人買いは今後も期待できると考えられます。
(2)「基本的には、米国経済の拡大が続くとの前提条件に、疑問を投げかける材料が増加」について、どう考えるべきか
米国の景気・企業業績に不透明感が強まってきたことで逆に、米政策金利の引き上げペースは緩慢になるとの見方が増えそうです。事実、6日にはNY連銀総裁が、同様の見通しを示しています。もっとも、米国の景気・企業業績が底割れするリスクも小さいでしょう。図表2に示したように、国際的企業の業績悪化要因となっているドル高について、既にピークアウト感が台頭しているためです。また、原油価格も落ち着きを取り戻し始めています。2015年1〜3月期の米S&P500採用企業の純利益は前年同期比5.8%減少する見通し(Bloomberg集計)ですが、既に株価には織り込みが進んでいるとみられますので、実際の発表を通し、逆にアク抜けが進む可能性も小さくありません。労働市場や住宅市場についても、冬場の悪天候の影響を考慮すれば、一時的な悪化にとどまる可能性もありそうです。
(3)「日本の企業業績の拡大、景気の回復に対する自信が揺らぎつつあること」について、どう考えるべきか
日銀短観で慎重な数字が出たことについては、「過大評価」すべきではないと思います。2015年度の前提為替レートが、14年度の下期平均レート並みの111円台になっていることで、円安効果が織り込まれていないと考えられるためです。短観は、上場企業の決算発表時に、業績見通しが慎重な数字になる可能性が大きいことを示唆していますが、為替レートが現状水準を維持した場合、実際の業績は、上振れする可能性が大きいとみられます。円安や原油安の効果が期待されることや、消費増税の影響一巡、法人税減税の効果等、企業業績を上向かせる要因に変化はないと考えられるためです。
そして何よりも、脱デフレが明確になるまで、日銀の緩和的金融政策は続くと予想されます。3月24日の「ココがポイント」でご説明した通り、日経平均の新年度想定レンジを「17,500円〜22,000円」とする見方に変化はありません。
図表2:米国際企業の「足かせ」となってきたドル高も一服?
経済指標がまさかの結果、でも先物を利用すれば対応可能 |
それにしても、3日に発表された米雇用統計(3月)の結果は「まさか」と叫びたくなるような驚きを伴う結果でした。2月までの雇用統計が強く、直前の新規失業保険申請件数の数字も「強い労働市場」を確認させる内容だったからです。週明け6日の東京市場では、日経平均が一時200円安近くまで下げる場面もあり、中には損切りしてしまった投資家もいらっしゃったと思います。
しかし、先物取引を使えば、リスクヘッジすることが可能です。先物取引口座を持ち、保証金を入れている投資家であれば、雇用統計発表後に必要な金額分だけ先物を売り建て、現物株と合わせたポジションを中立化させることが可能だからです。
無論、米雇用統計が発表されるのは通常、日本の金曜日の株式取引が終了後、しばらく経った日本時間21時30分(米国が夏時間の場合)ですので、現物株の売買対応はできません。しかし、先物取引には「夜間取引」があるので、雇用統計発表を見た直後でも対応可能なのです。ちなみに、雇用統計が発表された3日21時30分の日経平均先物(6月限)価格は19,460円でした。さすがに、発表直後には判断できず、19,400円前後で売り建てたとしても、6日の日経平均先物安値は19,250円でしたので、ある程度カバーできた形です。
今回の雇用統計は意外な結果でしたが、その後の株価推移も意外でした。6日の日経平均は最終的に上昇しましたし、同日のNYダウも上昇したためです。しかし、これは「結果論」です。雇用統計の発表を見た時に、「何これ?」と感じ、判断が付かなくなったならば、ポジションを中立化させることは、長く株式相場と付き合っていく上で、重要な戦術のひとつです。先物取引はそれを可能にしてくれるツールのひとつなのです。