東京株式市場は、新型コロナウイルスの感染拡大が再び加速しつつあるという悪材料を、世界的な株価堅調という好材料で吸収する形になり、7月第2週(7/6〜7/10)の日経平均株価はほぼ横ばいとなりました。ETF(上場投資信託)の決算に絡んで分配金支払いの資金を捻出する売り需要が一巡したこともあり、7月第3週(7/13〜7/17)は大幅高でのスタートとなっています。
そうした中、グローバルな比較で新型コロナウイルスの感染者数や死亡者数が少ないことを評価されてきた我が国でも、新型コロナウイルスの感染拡大が東京を中心に加速傾向を示し、全国的にも感染者が増え始めているように思われます。このまま、国内感染者が増え、株式市場は下落に転じてしまうのでしょうか。
東京株式市場では、日経平均株価が7月第1週(6/29〜7/3)に3週間ぶりの反落(前週末比0.9%下落)となった後、第2週も小幅続落(同0.1%下落)となりました。
新型コロナウイルスについては、感染拡大が加速する傾向が強まっています。世界の新型コロナウイルス新規感染者数は6月は1日当たり平均14.3万人でしたが、7月に入り、同20万人に加速しています。国別でもっとも感染が深刻な米国では、6月に一時、1日当たり新規感染者数が2万人を切る水準まで減速していましたが、現在は6万人超のペースに速まっています。ブラジルやインド、ロシア、南アフリカなど、中国を除くBRICs諸国の感染も深刻化しています。
我が国でも、5/25(月)には25人まで減っていた新型コロナウイルスの新規感染者数が、6/28(日)に再び100人超の水準まで加速し、7/11(土)には410人と4/25(土)以来の高水準となりました。国内外ともに、新型コロナウイルスの感染拡大について、第2波の到来が懸念される状況になっていると考えられます。
ただ、世界的な過剰流動性を背景に、株式市場の需給関係は強く、海外の株式市場は総じて堅調に推移しています。特に「香港国家安全維持法」施行後の6/30(火)〜7/13(月)の中国市場では、上海総合指数が10営業日中9営業日上昇する堅調な展開となり、米国市場も底堅い展開になりました。東京株式市場は結局、新型コロナウイルスの感染拡大という悪材料を、世界的な株価堅調という好材料で吸収する形になり、7月第2週の日経平均株価は小幅安にとどまりました。
なお、日経平均株価は7/8(水)に前日比176円安、7/10(金)に同238円安と大きめの下げになりましたが、ETFの決算に絡んで分配金支払いの資金を捻出すべく、7/8に推定3,000億円、7/10に同4,000億円の売り需要があったことが影響しているようです。7/13(月)は米国株高の影響もありますが、こうした売り需要の一巡が指摘され、前週末比493円高という大きめの上昇となり、TOPIXに影響の大きな時価総額上位中心の上昇になったものと考えられます。
表1 日経平均株価の値動きとその背景(2020/7/6〜2020/7/14)
日経平均株価 | 日米株式市場等の動き | ||
終値 | 前日比 | ||
7/6(月) | 22,714.44 | -99.75 | 都知事選が波乱なく終了。上海指数が大幅高。米株先物高も追い風。 |
7/7(火) | 22,614.69 | -99.75 | この日も上海株は堅調。ただし日経平均株価は利益確定売りに押される。 |
7/8(水) | 22,438.65 | -176.04 | 国内外で新型コロナウイルスの感染拡大を警戒。ETF分配金捻出で3千億円売り需要も。 |
7/9(木) | 22,529.29 | +90.64 | 伊藤忠によるTOBでファミリーマートが平均株価を押し上げ。SBG上昇も寄与。 |
7/10(金) | 22,290.81 | -238.48 | NY株安に加え、ETF分配金捻出で4千億円の売り需要も。ファミリーマートが下支え。 |
7/13(月) | 22,784.74 | +493.93 | 治療薬やワクチンへの期待でNY株が上昇。ETF分配金捻出の売り一巡も追い風。 |
7/14(火) | 22,587.01 | -197.73 | カリフォルニア州で飲食店・映画館が再び営業停止。米IT株の利益確定売りが増加。 |
- ※日経平均株価データ、各種資料をもとにSBI証券が作成。
図1 日経平均株価(日足)と主要移動平均線・おもな出来事
- ※当社チャートツールをもとにSBI証券が作成。データは2020/7/14取引時間中
図2 NYダウ(日足)と主要移動平均線・おもな出来事
- ※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。データは米国時間2020/7/13現在。
図3 ドル・円相場(日足)と主要移動平均線・おもな出来事
- ※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。データは2020/7/14取引時間中。
表2 当面の重要スケジュール
月日(曜日) | 国・地域 | 予定内容 | ポイント |
7/14(火) | 中国 | 6月貿易収支 | |
ドイツ | 7月ZEW景況感指数 | 350人の市場関係者に景況感を調査 | |
米国 | 6月消費者物価 | ||
米国 | ☆決算発表/4〜6月期決算の発表がスタート | シティG、JPモルガン、ウェルズ・ファーゴ他 | |
7/15(水) | 日本 | 日銀金融政策決定会合の結果発表/黒田日銀総裁会見 | |
日本 | 6月訪日外客数 | 5月は前年同月比99.9%減 | |
米国 | 7月NY連銀製造業景気指数 | ||
米国 | 6月鉱工業生産・設備稼働率 | ||
米国 | ベージュブック | ||
米国 | ☆決算発表 | ゴールドマン・サックス他 | |
7/16(木) | 中国 | 4〜6月期GDP | コンセンサスは前年同月比2.3%増 |
中国 | 6月鉱工業生産 | コンセンサスは前年同月比4.8%増 | |
中国 | 6月小売売上高 | コンセンサスは前年同月比0.2%増 | |
中国 | 6月都市部固定資産投資 | ||
欧州 | ECB理事会/ラガルド総裁会見 | ||
米国 | 6月小売売上高 | 前回(自動車・ガソリンを除く)は前月比12.4%増 | |
米国 | 7月フィラデルフィア連銀製造業景況指数 | ||
米国 | ☆決算発表 | バンカメ、J&J | |
7/17(金) | 米国 | 6月住宅着工件数 | |
米国 | 7月ミシガン大学消費者マインド指数 | ||
7/18(土) | - | G20財務省・中央銀行総裁会議 | |
7/20(月) | 日本 | 日銀金融政策決定会合(6/16発表分)議事要旨 | |
米国 | ☆決算発表 | IBM | |
7/21(火) | 日本 | ★決算発表 | ディスコ、日本電産 |
米国 | ☆決算発表 | テキサス・インスツルメント | |
7/22(水) | 米国 | 6月中古住宅販売件数 | |
7/23(木) | 日本 | 東京市場は休場(海の日) | |
米国 | ☆決算発表 | インテル、ツイッター | |
7/24(金) | 日本 | 東京市場は休場(スポーツの日) | |
米国 | 6月新築住宅販売件数 | ||
米国 | ☆決算発表 | アメックス、ベライゾン |
表3 日米欧中央銀行会議の結果発表予定日(月日は現地時間)
2020年 | |
日銀金融政策決定会合 | 7/15(水)、9/17(木)、10/29(木)、12/18(金) |
FOMC(米連邦公開市場委員会) | 7/29(水)、9/16(水)、11/5(木)、12/16(水) |
ECB(欧州中銀)理事会・金融政策会合 | 7/16(木)、9/10(木)、10/29(木)、12/10(木) |
- ※各種報道、日米欧中銀WEBサイト等をもとにSBI証券が作成。「予想」は市場コンセンサス。データは当レポート作成日現在。予定は予告なく変更される場合があります。なお、ECB理事会は金融政策の議論・決定を行う会合の日程のみ掲載しました。日付は日本時間(ただし、表3 の中央銀行会議の結果発表日程は現地時間)を基準に記載しています。
我が国における新型コロナウイルス感染者数は4月に入って急速に感染が拡大し、新規感染者数は4/12(日)に743人とピークを形成しました。その後は徐々に減速し、5/24(日)には14人まで減少しました。翌日には、緊急事態宣言が全国で解除となり、国内には急速に安心感が広まりました。
しかし、6月下旬頃から我が国の新規感染者数は再び拡大が加速し始め、前項でご説明したように、7/11(土)には410人と4/25(土)以来の高水準となりました。数字だけ見れば、我が国は、新型コロナウイルスの感染拡大について、第2波の到来が懸念される状況になっていると考えられます。
ただ、不思議に株式市場もメディアも今回は反応が静かなように思われます。なぜでしょうか。それは、重症者が今のところ低水準にとどまっているためとみられます。5/10(日)には267人もいた重症者が7/11(土)には33人まで減っています。このため、死亡者数増加も微々たるものにとどまっています。7月に入り、感染者数自体は2,909人も増加しましたが、死亡者数は10人しか増えていません。
新型コロナウイルスの感染対策として、重症者や死亡者の増加を抑えることが目標と考えるのであれば、現在は対策が機能していると評価することが可能になります。
今回の新規感染者数の増加の背景には、東京都が夜の街を中心に、積極的に検査を行い、軽症または無症状の感染者が多く検出されているためとみられます。すなわち、重症化しにくい20〜30歳代の若い人の検出が増えているため、重症化している人の検出も少ないと考えられます。我が国では4〜5月頃の検査件数は数千件程度にとどまっていましたが、現在は1万件程度検査される日もあるなど、検査数そのものも増えているようです。
PCR検査は多ければ良い訳ではないようですが、必要な人に幅広く行われれば、重症化する人の増加を防げる効果があるとみられます。夜の街での積極的な検査がそれにつながるのであれば、感染者数の増大を過度に気にする必要はないように思われます。
ただ、海外では、米国においてカリフォルニア州が再び飲食店や映画館の営業を停止するなど、再規制の動きが出ています。今後、規制強化の動きが経済指標の回復一巡につながり、一部で過熱感の出てきたグロース系銘柄の下落につながってきた場合、海外発で株価調整が本格化する可能性はありそうです。
図4 日本の新型コロナウイルス新規感染者数と重症者数
- ※厚生労働省データ、報道等をもとにSBI証券が作成。なお、厚生労働省から「重症者」の発表が行われ始めたのは5/9(土)発表分以降になっています。なお、数字は過去分が修正されることもあり、それがグラフに反映されていない可能性もあります。