米国とイスラエルが「イランの核兵器と弾道ミサイルの開発・保有を阻止する」としてイランを攻撃し、最高指導者ハメネイ師を殺害してから10日間が経過しようとしている。「圧倒的な軍事力の差から短期間で混乱が収束する」との当初の株式市場参加者の期待は裏切られつつある。イランメディアは3/9、イスラム聖職者で構成する「専門家会議」で、最高指導者に、ハメネイ師の次男で筋金入りの反米強硬派とされるモジダバ・ハメネイ師が選出されたと報じた。また、イランの軍隊では、正規軍とは独立した最高指導者の直轄部隊である「革命防衛隊」が、最上位の指導者が倒れても各地の指揮官が自律的に作戦を継続できる「分散型モザイク防衛」を構築しているとされる。
それでは、混乱の短期収束シナリオは描けないのだろうか?米国には、1973年制定の「戦争権限決議」と呼ばれる法律がある。大統領が議会の事前承認なしに軍事行動を開始した場合、48時間以内の議会通知と、原則60日以内の撤退を義務付ける内容である。世論調査では米国民の過半数が今回の攻撃に反対し、明確な計画が示されていないことに懸念を抱いていることが示されている。また、長期的な軍事行動を継続するには議会による予算措置が必要になる。4月末までに混乱が収束する可能性も考えられる。
足元の米国株市場の下落は、中東の地政学リスクだけが原因ではなく、プライベート・クレジット(ノンバンク融資)市場の動揺も挙げられる。米資産運用最大手ブラックロック傘下ファンドで投資家の解約請求が急増し、ファンド側が解約を制限する事態に発展した。2月にはブルー・アウル・キャピタル傘下のプライベート・クレジット・ファンドにおいて、定期的な四半期ごとの償還が停止されたことも話題となった。プライベート・クレジットには、売却したいときにできない「流動性リスク」に加え、銀行が融資を敬遠するような高リスク先への融資に伴う「投資先破綻リスク」、投資先の財務状況などの実態を把握しづらい「資産評価の不透明性問題」があり、イラン情勢の地政学リスクでリスク回避心理が強まれば富裕層投資家の間で資金を引き揚げる動きが加速し、流動性リスクを高める懸念が残る。
景気循環の波(景気サイクル)には4つの波があり、そのうち在庫循環に伴う短期変動の「キチンの波」は平均で約40ヵ月周期とされる。4年前の2022年まで遡ると、ロシアのウクライナ侵攻を受けて、3月にWTI原油先物価格が1バレル130ドル台まで上昇し、供給網の混乱からコストプッシュ型のインフレが加速した。大統領選挙サイクルで米国株市場が弱いとされる中間選挙年という点も共通している。当時と異なる点として、米国の大統領が「朝令暮改」タイプのトランプ氏であること、および金融面でのリスクが顕在化しつつある点が挙げられる。(笹木)