米国が6/21、イランの核施設への攻撃に踏み切った。イランは「重大な国際法違反だ」と反発し、世界の石油供給の約2割が通過するホルムズ海峡の封鎖まで踏み切るのではないかとの懸念が深まっている。バンス米副大統領が6/22、米軍によるイランの核施設攻撃を巡り「核開発計画を根絶することに焦点を当てた」と述べて限定的な攻撃であることを強調したこともあり、情勢が一段と悪化するとの過度な懸念は薄らいでいる。
イランによるホルムズ海峡封鎖は、国家安全保障最高評議会の決定が最終的に必要な中、議会の承認を得ている。一方で、米軍によるイラン核施設への攻撃は、民主党だけでなく共和党の有力議員からも、議会による宣戦布告なしに行った憲法違反の疑いとの見方が出ている。今後のトランプ大統領の議会運営に禍根を残しかねない状況だ。ホルムズ海峡の閉鎖に至るまで事態がエスカレートしない限り、米国のイランへの攻撃は限定的とならざるを得ないだろう。
米国株市場は、足元で顕在化している中東情勢の地政学リスクの他に、2つの潜在的リスクを抱えている。
第1に、相互関税の猶予期限を7/9に控えた「トランプ関税」の動向だ。米商務省は今後数週間以内に、半導体や医薬品、重要鉱物など、国家安全保障上の観点から重要と見なされる分野に関する調査結果を公表する見通しだ。調査結果を踏まえ、当該分野の輸入品に関税が課される可能性がある。米国際貿易裁判所がトランプ大統領の世界的な相互関税を巡り、国際緊急経済権限法(IEEEPA)に基づく追加関税の適用を違法と判断した。トランプ大統領は、通商拡大法第232条で大統領に与えられた権限として国・地域別の措置よりも、特定の産業・製品をベースとするアプローチにシフトしてくると考えられるだろう。
第2に、連邦議会上院で審議中の「税制・歳出法案」が成立した場合の米国債市場の動向だ。共和党は7/4の独立記念日までの可決を目標としている。法案成立には連邦債務上限の引き上げが前提となり、米議会予算局(CBO)は今後10年間に連邦政府の財政赤字を2.8兆ドル押し上げると予測している。クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)市場を見ると、5年物国債について発行体の信用リスクを表す「CDSスプレッド」(6/20時点)は、米国債が4月第1週以来の水準となる46ポイント台まで低下した。債務上限の引き上げによってCDSスプレッドが上昇すれば、「米国債売り・米ドル売り」が再燃するリスクがある。
投資の本質がリスクとリターンのバランスの変化にあるとすれば、6月から7月へと月が替わることにより、潜在的なリスクが顕在化することでリスクのウェイトが高まることで米国株市場が動きやすくなると考えられるだろう。(笹木)