ユーロ圏の景況悪化を契機に4月半ばから下落となっていたユーロ・ドル相場は、イタリア政局の落ち着きとECB(欧州中央銀行)による金融緩和縮小期待の高まりを受けて反発しつつあります。再び上昇基調を取り戻す可能性が高いと見られ、ユーロ圏の資産に注目できそうです。
図表1:欧州株式に投資するETF(上場投資信託)
取引 | チャート | コード | 銘柄 |
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EWG | iシェアーズ MSCI ドイツ ETF | ||
IEV | iシェアーズ ヨーロッパ ETF | ||
VGK | バンガード FTSE ヨーロッパETF |
※当社WEBサイトとをもとにSBI証券が作成
17年の年初から対ドルで大幅に上昇したユーロ相場は4月半ばの1.24ドル/ユーロ近辺から下落に転じ、5/29(火)にはイタリアの再選挙が懸念されて1.51ドル/ユーロを付けました。1ヵ月半に渡る相場下落は、ユーロ圏景気の鈍化に加え、イタリア政局の混乱が重なったことが要因でした(図表2)。
しかし、(1)ユーロ圏の景況悪化は一時的と考えられること、(2)欧州中央銀行の金融緩和の縮小が見込まれること、(3)イタリアの新政権は「ユーロ離脱は検討していない」と明言したこと、によりユーロ相場は上昇基調に戻る可能性が高いと考えられ、再びユーロ圏の資産に注目できそうです。
(1)のユーロ圏の景況悪化の主因は、17年初から進んだユーロ高によるマイナスの影響が出てきたためと見られます。
しかし、日本での円高でも経験するところですが、通貨高による景気への影響は時間の経過とともに緩和していくのが普通で、年末にかけてマイナスの影響は縮小していくと期待されます。
一方、ユーロ圏経済が回復してきた根本的なドライバーは、失業率の低下を背景とした消費の回復と考えられます。同指標は他の経済指標が顕著に鈍化した18年1月以降も着実に低下を続けていますので、ユーロ圏経済の回復基調は継続すると期待できるでしょう(図表3)。
(2)の欧州中央銀行の金融政策については、金融緩和の縮小に対する市場の期待が足もとで一気に高まっています。
5/31(木)に発表されたユーロ圏の5月消費者物価指数が前年比1.9%増に上昇し、これを受けてECB(欧州中央銀行)のチーフ・エコノミストであるプラート理事が6/6(水)の講演で、来週6/14(木)のECB理事会で「資産購入停止に関して協議する必要がある」と発言したためです。
ECBによる資産購入停止の発表が近いのではないかとの思惑が高まっています。来週は6/13(水)のFOMC(米連邦公開市場委員会)結果発表、6/15(金)に日銀の金融政策発表が重なりますが、ECBの動きに最も注目が集まっています。
(3)のイタリアの政治については、反エスタブリッシュメントを掲げる「5つ星運動」と反移民の「同盟」の連立による新政権は欧州主要国で初の「ポピュリスト政権」の誕生で、欧州連合(EU)に対する懐疑的姿勢や先行きの財政悪化はリスク要因として注意が必要でしょう。
ただ、連立政権の首相に就任したコンテ氏は所信表明で「通貨ユーロからの離脱は検討していない」と明言し、当面は通貨ユーロの大きな懸念にならないとの見方が強まっているようです。
最後にテクニカルの観点から、5/29(火)に付けた直近安値の1.51ドル/ユーロは、17年初の1.05ドル/ユーロ前後から18年2月の1.25ドル/ユーロ前後への上昇幅に対する半値押しに相当します(図表4)。
また、100日移動平均線と200日移動平均線のゴールデンクロスが1.14ドル/ユーロ近辺、週足の一目均衡表の雲の上限が1.16ドル/ユーロ近辺にあり、重要なポイントが集中しています。テクニカル面からも押し目買いが有効と考えられます。為替のファンダメンタルズに当たる購買力平価では、1.25〜1.28ドル/ユーロが妥当な水準となっています。
ユーロ・円相場については、日本銀行の金融緩和姿勢が継続する見通しであることから、ユーロ・ドル相場以上に上昇は大きくなると期待できるでしょう。
ユーロの上昇を取るにはいろいろな方法がありますが、その一つとして欧州株式に投資するETFを図表1にご紹介しています。ユーロが急激に上昇すると株式はこれを嫌気して一時的に下げることが多いものの、景気回復が背景となっている場合には、戻っていくことが期待されます。
図表1の筆頭「iシェアーズ MSCI ドイツ ETF」はドイツにのみ投資します。一方、「iシェアーズ ヨーロッパ ETF」と「バンガード FTSE ヨーロッパETF」はユーロ圏と英国の両方の株式に投資します。Brexitによる英国企業への悪影響が気になる方は、これを避けたほうがよいでしょう。
図表2:ユーロ圏の景況は昨年末をピークに低下となっているが・・・
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表3:ユーロ圏の失業率低下は依然として継続中
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表4:1.05ドル/ユーロから1.25ドル/ユーロへの上昇に対する半値押しを示現
注:購買力平価は国際通貨研究所の18年3月データによる計算です。
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成