今回は米国の機関投資家が資産配分の参考にする、主要資産の「想定リターン」をご紹介いたします。代表的機関投資家の資産配分事例と合わせ、ご自身の運用ポートフォリオを考える際にご参考にしていただければ幸いです。
図表1:主要資産クラスの代表的ETF(上場投資信託)
取引 | チャート | コード | 銘柄 |
---|---|---|---|
VTI | バンガード トータルストックマーケットETF | ||
VWO | バンガード FTSEエマージングマーケッツETF | ||
VEA | バンガード FTSE先進国市場(除く北米) ETF | ||
AGG | iシェアーズ コア 米国総合債券市場 ETF | ||
IYR | iシェアーズ 米国不動産 ETF |
※当社WEBサイトをもとにSBI証券が作成
今回は世界の年金基金などの機関投資家が資産配分を決めるときに参考にする、「資産のリターン想定」とともに、代表的な年金基金の資産配分の事例をご紹介いたします。ご自分の運用ポートフォリオと比べてどうか、足らないものはないかなど、ご検討してみてはいかがでしょうか。
〇主要資産の想定リターン
取り上げるのは、eVestmentという運用サービス機関が作成した18年2月付の年次レポート「キャピタル・マーケット・アサンプションズ:10のコンサルタントの見通し(Capital Market Assumptions: 10 Consultant Outlooks)」 です。
機関投資家は資産運用のプロですから、自社で相場観をもっていますが、外部の客観的な意見も参考にするために、資産運用コンサルタントのサービスを利用することが多いようです。上記レポートは、世界でトップクラスの資産運用コンサルタント10社が、主要な資産の種類ごとにどのようなリターンの想定をしているかを集計しており、これを図表2に示しています。
この「想定リターン」については、過去の長期的なリターンの傾向と足もとの状況を勘案して、「中長期にはこれくらいのリターンが想定できる」という性格のものです。ですから、必ずしもこのようなリターンが実現する保証がないことにはご注意ください。また、想定リターンが高い資産は、価格変動性が相応に高く、期間を区切るとマイナスのリターンで終わってしまう可能性が大きい資産であることにもご注意ください。
さて、注意事項を述べた後で、図表2を検討してみましょう。
株式の想定リターンは、「新興国株式>国際株式>米国大型株」の順になっています。おそらく、現在の株価評価が想定リターンの高低に影響していると考えられます。
米国株の予想PERはS&P500指数で17.4倍であるのに対して、欧州の「ストックス欧州600指数」は14.5倍、日本のTOPIX指数は14.1倍、新興国株式の代表的指数である「MSCIエマージング・マーケット・インデックス」は12.9倍となっています。米国企業の成長性が最も高いというのが一般的な見方と思われますが、足もとの株価評価が高いために想定リターンは相対的に低くなっていると見られます。
債券については、株式よりも価格変動性が低いため、想定リターンは株式よりも低くなります。債券の中では、国債を中心とするコア債券に対して、より高いリスクがあるハイイールド債と新興国債券の想定リターンはこれを大きく上回る傾向があります。また、新興国債券の想定レンジは比較的大きく、コンサルタントによって見方が割れていることがわかります。
不動産は、インフレヘッジ(地価は物価の上昇に連動しやすいため)や資産の分散効果を高めるために組入れられることが多いようです。プライベートエクイティは流動性が低いため(上場株式のように、売りたい時にすぐに売れない)、最も高い想定リターンとなっています。
様々な戦略があるヘッジファンドのリターンを想定するのは議論のあるところでしょうが、この調査ではストレートな株式のリターンよりも低いリターンが想定されています。
〇資産配分の事例
米国の公的年金などの機関投資家は、これらの資産のリターンの想定を参考にしつつ、自身の相場観によって資産配分を決定していきます。機関投資家による資産配分の例として、米国の年金基金の資産配分の例を図表3に示しています。
図表左のカリフォルニア州退職年金基金は、米国の公的年金では最大です。また、ハーバード大学基金は米国の知性を代表する機関の基金ですので、資産配分でその動向がよく注目されます。
両基金とも、プライベートエクイティを含めて国内外の株式に5割前後を配分していることがわかります。長期的な資産の成長を目指す運用では、中心となる資産は株式と考えられていることが分かります。また、債券、不動産などがこれに次いで中心的な組入れ資産となっています。
両基金で大きく違うのは、ハーバード大学基金が「絶対リターン」を目指すヘッジファンドや「天然資源」への配分を多くとっていることです。ただ、この戦略はいま振り返ってみると、必ずしも成功したとは言えず、その後同基金は配分の見直しを行ったようです。
図表1には、主要な資産クラスに対応する代表的なETFをあげてあります。ご自身で資産配分を考える際のご参考にしてみてはいかがでしょうか。
図表2:主要資産ごとの中期リターンの想定(資産運用コンサルタントの集計)
注:中期リターンは、10年間またはそれ以下の幾何平均によるリターンです。
※eVestment社のレポートデータをもとにSBI証券が作成
図表3:米国の年金基金の資産配分の例
注:カリフォルニア州退職年金基金は、17年6月末時点で、資産額は3,522億ドル、ハーバード大学基金は16年6月末で、資産額は357億ドルです。
※各基金の公表資料をもとにSBI証券が作成