先週は米中通商協議に対する楽観と良好な経済指標の発表を受けて再び史上最高値を更新しました。今週はトランプ米大統領が11/27(水)に署名した「香港人権・民主主義法案」に対する中国側の反応が注目されます。
今回はここ3ヵ月の上昇相場で株価動向が出遅れているものから、フェデックス(FDX)、テキサス インスツルメンツ(TXN)、アマゾン ドットコム(AMZN)、ペイパル ホールディングス(PYPL)、スターバックス(SBUX)を選んで今週の5銘柄といたします。
図表1 S&P500指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
図表2 業種別指数騰落率・個別銘柄騰落率
S&P500業種指数騰落 | 1週 | 1ヵ月 | 3ヵ月 |
一般消費財・サービス | 2.4% | 0.5% | 2.2% |
情報技術 | 1.6% | 3.9% | 10.7% |
ヘルスケア | 1.5% | 4.7% | 9.7% |
金融 | 1.5% | 3.4% | 12.0% |
S&P500 | 1.2% | 2.4% | 7.3% |
素材 | 1.0% | 1.4% | 5.9% |
通信サービス | 0.9% | 2.9% | 7.0% |
資本財・サービス | 0.8% | 1.9% | 8.2% |
生活必需品 | 0.8% | 1.1% | 2.1% |
不動産 | 0.8% | -1.7% | -1.7% |
公益事業 | 0.0% | -2.1% | 0.8% |
エネルギー | -1.9% | -1.4% | 2.2% |
騰落率上位(1週) | 騰落率 |
ペイパル・ホールディングス | 5.3% |
フェデックス | 5.2% |
フォード・モーター | 4.0% |
バイオジェン | 3.9% |
ゼネラル・モーターズ(GM) | 3.8% |
騰落率下位(1週) | 騰落率 |
キンダー・モルガン | -2.7% |
ゼネラル・エレクトリック(GE) | -2.3% |
エクソンモービル | -2.2% |
ターゲット | -2.1% |
クアルコム | -1.8% |
注:個別銘柄の騰落率上位、下位はS&P100指数が母集団です。銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
先週の米国株式市場
週前半の3日間は、米中通商協議への楽観や11/27(水)に発表された米国の7-9月期実質GDP速報値、10月の耐久財受注が良好であったことを受けて連続で史上最高値を更新しました。一方、感謝祭の休日をはさんで11/29(金)は、トランプ米大統領による「香港人権・民主主義法案」への署名が米中通商協議に影響するのではないかとの懸念から反落となっています。S&P500指数は週間で1.0%の上昇でした。
業種指数騰落率では、「一般消費財・サービス」がトップです。小売、自動車、アパレル、レストランのサブセクターがまんべんなく上昇しており、年末商戦も好調になるとの期待が背景にあるとみられます。「情報技術」もソフトウェア、ハード機器、半導体がそろって上昇、「ヘルスケア」も引き続き選好されています。
経済指標では、米国の7-9月期実質GDP改定値は、前期比年率2.1%増へ速報値の同1.9%増から上方改定となりました。個人消費は同2.9%増で変わらなかったものの、在庫投資が上方改定されています。また、低調が予想されていた米国の10月耐久財受注は、前月比0.6%増と予想外の良い数字が出ました。製造業の底入れ期待に対するサポート要因になるでしょう。
一方、米国の11月コンファレンスボード消費者信頼感は125.5と前月の126.1から低下、消費者心理はやや陰っているようです。
今週の米国株式市場
トランプ米大統領による「香港人権・民主主義法案」への署名が米中通商協議にどのような影響をもつか見守ることになりそうです。経済指標では、11/30(土)に発表された中国の11月製造業・非製造業PMIが改善を示して、これは週明けの相場にポジティブに作用しそうです。このほか、米国の11月ISM製造業・非製造業景気指数、11月雇用統計などの重要指標も注目されます。
米中通商協議に関しては、トランプ米大統領はできれば中国の政治問題に立ち入ることなく第1段階の部分合意にこぎ着けたかったとみられますが、米議会の強硬姿勢を受けて署名に追い込まれたようです。これに対して中国側は「内政干渉」への報復措置を言明しています。報復措置がどのような内容になるか、米中通商協議への影響はどうなるか、今後の発表が注目されます。
S&P500指数は過去3ヵ月で7.4%、年初来で25.3%の上昇で、来期の予想EPS(180.53ポイント)を基準とした予想PERは17.4倍まで高まっています。来年前半までの高値を予想PER18.0倍程度と考えると、当面ここからの上値は限定的と言えるでしょう。目先は「売り上がり」のスタンスで良いのではないでしょうか。
例えば、株価指数に投資する意味合いで保有しているものについては3分の1を売却しておき、さらに上がるなら売却を増やす、調整した場合はまた買うということが考えられます。個別銘柄では、よく上昇したものは売りを検討、出遅れているものの買いを検討するのが良いでしょう。
株式投資で「売り」が重要なのは言うまでもありません。筆者は証券会社に就職してその後グループの運用会社に移りましたが、移った先の社長から最初に言われたのが「君たちはいままで買いしか考えていなかったかもしれないが、これからは売ることも考えてほしい」「将来より多く買うために、いま売るのだ」と言われたのを覚えています。
経済指標では、12/2(月)に米国の11月ISM製造業景気指数(前月の48.3から49.2に改善の予想)、12/4(水)に米国の11月ISM非製造業景気指数(前月の54.7から54.5に悪化の予想)、12/6(金)に米国の11月雇用統計(非農業部門雇用者数は前月比18.8万人増の予想)などの発表が予定されています。
企業決算では、ソフトウェアのセールスフォースドットコム、アドビ、小売のダラーゼネラル、コストコホールセール、半導体のブロードコムなどの発表が予定されています。
今週の5銘柄
今回はここ3ヵ月の株価動向が出遅れている銘柄をご紹介いたします。
これを取り上げるのは、11/27(水)時点の週間株価上昇率上位に、四半期決算が失望されて株価の動きが低調であった、フェデックス、テキサスインスツルメンツ、アマゾンドットコムなどがランクインしていたためです。
決算は良くなかったけれども株価への織り込みが進み、中長期に成長が期待できるものについては見直し買いが入っている可能性があると考えました。
そこでこのような銘柄を探すために、S&P100指数の採用銘柄について以下の条件でスクリーニングを行いました。
(1)過去5日の株価騰落率が1.5%以上(同期間でS&P500指数は1.5%の上昇)
(2)過去3ヵ月の株価騰落率が5%以下(同期間でS&P500指数は9.2%の上昇)
(3)過去3ヵ月のEPS修正率がマイナス1%以下
(4)来期のEPSが増益予想
抽出された図表3の銘柄から、フェデックス(FDX)、テキサス インスツルメンツ(TXN)、アマゾン ドットコム(AMZN)、ペイパル ホールディングス(PYPL)、スターバックス(SBUX)を選んでご紹介いたします。
図表3 株価出遅れ銘柄のスクリーニング(S&P100指数採用銘柄)
コード | 銘柄 | 株価 (11/27) (ドル) |
株価 騰落率 (5日) (%) |
株価 騰落率 (3ヵ月) (%) |
EPS 修正率 (%) |
来期 増益率 (%) |
目標株価 乖離率 (%) |
FDX | フェデックス | 161.51 | 6.1 | 2.6 | -17.1 | 14.0 | 6.2 |
TXN | テキサス・インスツルメンツ | 121.73 | 4.7 | -1.5 | -3.2 | 1.4 | 2.1 |
F | フォード・モーター | 9.10 | 4.2 | -0.2 | -2.7 | 7.4 | 12.8 |
AMZN | アマゾン・ドット・コム | 1818.51 | 4.2 | 1.8 | -9.9 | 24.9 | 19.8 |
PYPL | ペイパル・ホールディングス | 107.75 | 3.5 | -1.3 | -1.8 | 13.9 | 17.4 |
SBUX | スターバックス | 85.77 | 2.6 | -12.2 | -1.6 | 12.1 | 9.0 |
DHR | ダナハー | 146.59 | 2.5 | 3.5 | -1.0 | 16.5 | 3.7 |
GM | ゼネラル・モーターズ | 36.14 | 2.4 | -2.1 | -28.3 | 32.8 | 31.1 |
ACN | アクセンチュア | 201.25 | 1.8 | 1.3 | -2.2 | 9.5 | 1.1 |
注:銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
今週の注目銘柄
買付 | チャート | 銘柄 | 株価 (11/29) |
予想PER (倍) |
ポイント |
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フェデックス(FDX) | 160.05ドル | 13.1 | 【世界景気が底入れするなら恩恵が期待される】 ・世界景気減速や米中通商摩擦による貿易不振の影響を受けて、6-8月期決算は売上が前年同期比横ばい、営業利益率が7.0%から6.1%に低下、調整後EPSが同12%減と低調でした。また、8月に陸上輸送部門がアマゾンとの契約を失ったことも業績低迷に影響しています。これを受けて20年5月期の調整後EPSを11〜13ドルに引き下げています。 ・同社の株価は18年1月に高値を付けてその後2年近く下落基調で推移、中国、欧州、日本の製造業PMIが17年末から18年初にかけてピークを付けたのと連動しているとみられます。現在市場では製造業の底入れを期待していますが、これが予想通りに実現するなら同社の株価も底入れとなる可能性が高そうです。9-11月期決算は12/17(火)に発表の予定です。 | ||
テキサス インスツルメンツ(TXN) | 120.21ドル | 22.3 | 【10-12月期ガイダンスが市場予想を下回るも中期的にIoTでの活躍が期待される】 ・7-9月期決算で発表した10-12月期ガイダンス中央値は売上が32.0億ドル(前年同期比14%減)、EPSが1.0ドル(同21%減)と、市場予想のそれぞれ36億ドル、1.28ドルを下回りました。この結果を受けて株価は決算発表日10/22(火)の128.57ドルから11/29(金)まで6.5%の下落となっています。 ・足もとの業績の落ち込みは世界的な製造業の不振が影響していますが、市場では底入れ期待が台頭しており、最悪期を脱する可能性が高くなっています。さらに、同社が主力とする組み込み半導体、アナログ半導体ともIoT(モノのインターネット)の実現に欠かせないもので、5Gの普及によってIoTでのさらなる活躍が期待されます。 | ||
アマゾン ドットコム(AMZN) | 1800.80ドル | 45.8 | 【10-12月期のガイダンスが弱かったが、中期的な成長力は高い】 ・7-9月期のEPSが市場予想を下回り、10-12月期の売上ガイダンスが前年同期比11〜20%増と7-9月期の同24%増を下回りました。また、国防総省の100億ドルを超えるクラウド契約をマイクロソフトに取られたことなども影響して、決算発表の10/24(木)以降株価は1,800ドル前後の横ばい圏で推移しています。 ・19年に入って業績が弱いのは、プライム会員向けの無料配送期間を2日から1日に短縮すべく物流網に投資を行っているためです。足もとの業績を抑える要因にはなるものの、中期的には顧客囲い込みの強力な武器になると期待されます。年末商戦は消費のマクロ環境が良好であることから好調が期待され、実店舗からネット通販へのシフトが続いて同社の事業環境は良好と考えられます。 | ||
ペイパル ホールディングス(PYPL) | 108.01ドル | 30.9 | 【4-6月期決算での売上下方修正の織り込みが進む】 ・4-6月期の決算発表時に19年12月期の売上ガイダンスを178.5〜181.0億ドルから176.0〜178.0億ドルに引き下げて以降、株価が低迷してきました。下方修正の要因はサービス統合の遅れ、サービス価格の調整および為替の影響ですが、7-9月期決算では売上が前年同期比19%増、一時的要因を除く調整後EPSが同31%増と好調な業績の伸びが確認されています。 ・同社の売上成長の基調は20%近くになっているとみられます。eコマースの拡大の波に乗るほか、売上が低迷するeBayの構成比が10%以下に低下しています。一方、個人間送金で伸びるVenmoの構成比が15%に達し、また、中国のGoPayとの提携による効果も期待されます。19年12月期の売上ガイダンスは15%増ですが、一部売上債権の売却が3.5%ポイントの押し下げ要因になってます。さらに、11/20(水)に40億ドルで買収を発表した価格比較サービスを提供するハニー・サイエンスは、小売事業者に売上を差し向ける機能があるため、同社事業とのシナジーが期待されています。 | ||
スターバックス(SBUX) | 85.43ドル | 28.0 | 【EPSの下方修正は一時的要因によるとみられる】 ・過去3ヵ月でEPSが1.6%の下方修正となっているのは、7-9月期の営業利益率が前年同期比0.6%ポイント低下したことが要因とみられますが、社員教育のためのコンファレンス費用が影響しており、一時的と考えられます。また、株価の低迷は、物色がグロース/ディフェンシブからバリュー/シクリカルに変化したことも影響しているとみられ、基本的には「利食い」がかさんだことによると考えられます。 ・7-9月期決算では、グローバルの既存店売上が前年同期比5%増(米国が同6%増、海外が同3%増)で市場予想の同3.9%増を大きく上回り業況の好調が確認されています。2017年にCEOがケビン・ジョンソン氏に交代して進められた改革の効果が持続しており、顧客体験の向上、飲料のイノベーション、デジタル技術の活用などに注力する戦略が奏功しているとみられます。 |
注:予想PERはBloomberg集計のコンセンサス予想EPSによります。フェデックスは20年5月期、スターバックスは20年9月期、その他は20年12月期です。
※会社資料、BloombergデータをもとにSBI証券が作成
主要イベントの予定
経済指標・イベント | 企業決算・イベント | |
12月 2(月) |
・財新中国製造業PMI(11月) ・米ISM製造業景気指数(11月) |
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3(火) | ・ユーロ圏生産者物価指数(10月) ・米自動車販売台数(11月) |
セールスフォースドットコム |
4(水) | ・米ADP雇用統計(11月) ・米ISM非製造業景気指数(11月) |
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5(木) | ・OPEC総会(ウィーン) ・ユーロ圏小売売上高(10月) ・ユーロ圏実質GDP(7-9月期、確報値) ・米貿易統計(10月) ・米製造業受注(10月) |
アルタビューティ、ティファニー、ダラーゼネラル |
6(金) | ・OPECプラス総会(ウィーン) ・米雇用統計(11月) ・ミシガン大学消費者マインド(12月) ・米消費者信用残高(10月) |
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8(日) | ・中国貿易統計(11月) | |
9(月) | ・日本実質GDP(7-9月期、確報値) ・中国資金調達総額(11月) |
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10(火) | ・中国生産者・消費者物価指数(11月) ・日本工作機械受注(11月、速報値) ・ドイツZEW調査(12月) ・米NFIB中小企業楽観指数(11月) |
オートゾーン |
11(水) | ・米消費者物価指数(11月) ・米FOMC政策金利 ・米月次財政収支(11月) ・米消費者物価指数(11月) |
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12(木) | ・日本機械受注(10月) ・英国総選挙 ・ユーロ圏鉱工業生産(10月) ・ECB主要政策金利 ・米生産者物価指数(11月) |
アドビ、ブロードコム、コストコホールセール |
13(金) | ・日銀短観(4Q) ・日本鉱工業生産(10月、確報値) ・米小売売上高(11月) ・米輸入物価指数(11月) |
注:日付は現地時間によります。企業決算の赤字でのハイライトは、当社顧客保有数の1〜30位、青字のハイライトは31〜50位を示します。
※Bloombergデータ、各種報道をもとにSBI証券が作成